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”愛着”や”想い”を受け取り、繋いでいく、温故知新。<あの人の温故知新 vol.1>

< FUNagain オーナー高島大輔さん>の温故知新

温故知新。古きを訪ね、新しきを創造すること。私たちの社名でもあり哲学でもあるこの考えをもとに、『あの人の温故知新をのぞいてみよう』という企画がスタート。第一回目は、東京にあるリサイクルショップFUNagain(ファンアゲイン)というお店を訪ねました。

ふつうとは一味ちがったリサイクルショップを運営する高島さんの審美眼やお店づくりには、”温故知新”の本質と呼ぶべきヒントが隠されていました。FUNagainのオーナー高島大輔さんと、温故知新の代表松山社長、プランナーの小林の対談をお届けします。


左から:温故知新プランナー 小林未歩 /温故知新代表 松山社長/ FUNagain オーナー高島大輔さん

自慢や見せるためではなく、自分のためのインテリアに出会う。

小林:高島さんは、昨年こちらにお店をオープンされたばかりなんですよね。簡単にお店の概要やコンセプトなど、ご紹介をお願いします。

高島:一言で表現するなら、リサイクルショップを『編集』した店だと思います。これはどういう時代背景があって、高級だから・・・というような従来の価値観や流行だけではなく、自由と楽しみをもって好きなものを選んでほしいという考えのもと、お店づくりをしています。人の目や、先人の作ったルールや価値観を気にしすぎたり、自慢やステータスとしてのインテリアではなく、本当に自分が素敵だなと思えるものと出会ってほしい。そんな想いでやっています。

小林:とても素敵なコンセプトですよね。実は私の自宅にもFUNagainで購入したインテリアがいくつかあります。手頃な値段なのに、味と個性があって、とても気に入っています。値段の安い/高い、有名である/ない、という価値基準ではなく、自分が本当に楽しい・お気に入りだな、と思えるものとの出会いをいただけたなあと感じています。

松山:あまりの素敵さにFUNagainで買ったよ!と自慢したくはなっちゃいますよね(笑)やはりその編集力というか。道端で見たらなんでもないようなものが、FUNagainでみるととっておきのものに見える。そのしつらえ方や魅せ方にハッとさせられますね。


FUNagainの店内。高島さんのキュレーションによって並ぶアイテムたちは、遊び心と生活の物語が詰まっている。

高島さんがインテリアコーディネートを手がけた、温故知新のホテル

小林:高島さんには、実は温故知新のホテルのインテリアコーディネートを手がけていただいてもいるんですよね。岡山のKEIRIN HOTEL 10と、長崎の五島リトリート rayです。私も一緒に開業の準備をしたのですが、どこから見つけてきたの!?という個性的なインテリアがあれよあれよという間に集まってきて。一見、並んでいないとバラバラになりそうな品々が、高島さんの手にかかるとバチリと、ずっと昔からそこにありましたよ、という顔つきになってしまう。コーディネートの際、何か意識されていたことなどはありましたか?


KEIRIN HOTEL 10のエントランス

高島:KEIRIN HOTEL 10では、『昔の競輪場の歴史を引き継ぐ』というコンセプトを提示していただきましたが、今の時代に見てもかっこよくみえる、という点を意識しました。競輪場の廃材を使用したり、競輪場がもともと持っていた”昭和”の雰囲気を取り入れながらも、”昭和レトロ”という表現ではなく、時代背景や廃材を生かしながら現代的に見える空間に。懐かしい、昭和レトロ的な感情は限られた人にしか届かないので、より多くの人達にその歴史を感じてもらえればという想いを込めてもいます。特にスイートルームでは、民藝品と工業製品がミックスされていたイームズ邸を頭に置きながら、プラスチック製品が大量に流通していて、競輪場が盛り上がっていた80年代に置き換えて選定、レイアウトしました。


KEIRIN HOTEL 10 スイートルーム

松山:まるで、魔法みたいでしたね。どこか古さを内包しつつも、とても新しい空間に見える。古さをそのまま捉えるのではなく、現代で見た時にも新しくかっこいいと思われる形で表現をすることが肝だったんですね。廃材を使ったり、昔の歴史にスポットを当て、価値がないものとされるもの、捨てられてしまうはずだったものに光を当てて、新しい価値を生み出していく。温故知新の哲学でもある、「光を見つけ、磨いて、届ける」という想いと、高島さんのまなざしは、近しいものを感じています。

”もの”の本質と対話する、『目利き力』

松山:FUNagainでは、かなり手頃な価格で掘り出し物と出会える。それは、やはり高島さんの目利き力がすごいわけで、これはなかなか真似できない。一体、どういう視点でものを見ているんでしょうか?

高島:新しい、価格が高い、ブランドものであるかないかなど、一旦そのバイアスを外して見ることは、心がけています。そのもの自体の作りや、造形、垣間見える作り手のこだわりを感じる部分など、それにしかない唯一無二の個性を見つけるようなイメージです。このカーブ、絶対手間暇かかっているな、このこだわりは一体どういうことなんだろう?のような。合理的ではない部分を見つけたり、純粋にものとしての美しさに目を向けていますね。

松山:驚きました。普通のひととは、一段違うレイヤーでものを見ている。無名有名、値段が高い・低いではなく、ものそのものへの敬意の眼差しを感じますね。差別がない。もの自体と向き合い、作り手と対話をしているんですね。

『良い違和感』に滲み出るのは、もの本来の価値や意図

高島:先日、ちょっと嬉しいことがあって。古物の競りで、他の人たちはみんなスルーしていた椅子があったのですが、どうしても気になったんです。特にサインなどもなく、一見無名に見える椅子だったのですが、横から見ると少し座面が浮き上がっていたり、脚もまっすぐではなく、下に向かいシェープされていて美しい。こういった部分には、作り手の何かの意図を感じます。自分の中にある情報と照らし合わせて、『良い違和感』を感じて、目に留まったんです。


浮き上がる座面と、下に向かいシェープな脚

高島:のちのち、しっかり調べてみると、フランスのミッドセンチュリー期に活躍したピエール・ガーリッシュというデザイナーの手がけた椅子だったんですね。彼は、コルビジュの建築に対して家具デザイナーとして働いていただけでなく、建築家としても活動しました。『良い違和感』を感じ取ったからこそ、出会えた椅子でしたね。

松山:それは、ホテルを作る時もまったく同じことがありますね。唯一無二のものを感じたり、そこにしかない、ありえないものを見つけた時は、痺れる。『あぁ、絶対にここだ!』となるんです。それはもう、有名無名とか関係なく。確かに『良い違和感』というのは、素晴らしい言語化ですね。

小林:『良い違和感』を感じ取れるようになることは、本当に良いものを選び取る目利き力に、とても重要なポイントなのかもしれませんね。良い違和感に気づくには、一体どうすればよいのでしょうか?

高島:インテリアなどに関しては、ある程度の”型”はあるので、それは勉強でどうにかなる部分もありますが、私自身、自分のお金を使ってたくさんのものを買って、たくさん失敗して、たくさん経験してきました。まずは、いろんなことを見て、経験することが、なにより大切だと思います。そうやって、自分の中に情報が蓄積されていくからこそ、違和感と出会った時に気がつける。他にも、古いものや歴史背景を知ることで、目の前のものをより正しく判断できるようにもなります。やはり”知ること”が重要ですね。あとは、何か良いなと思ったものと出会った時、”その理由を言語化して捉える”というのは、日々かなりやっています。

松山:先ほどの椅子もそうですが、高島さんは『良い違和感』や魅力を、「なんかいい」で終わらせず、こういう理由があって、と全て説明できていますよね。言葉にできるからこそ、再現性がある。

高島:お店のInstagramでも、なぜ自分がこのアイテムを良いと思ったのか、どんな風に使ってみたいかなどを、言葉で発信しています。FUNagainで出会うものは、リサイクルショップはふつうの古道具屋さんにあるものなんです。選び方やしつらえ次第。それをみんなに気づいてもらいたいなと思いますね。

小林:私も、FUNagainでものを買ってから、高島さんだったらどう見るかな?と考えるようになって。”高島目線”をちょっぴり手に入れたというか(笑)高島さんの言葉や眼差しが、自分の好きを見つける補助線になってくれています。自分の好きや、自分が何を良いと思うのかを知る手助けをしてくれるお店は、とても温かな価値があるように思いますね。

高島さんの”温故知新”=”愛着”や”想い”を受け取り、繋いでいく。

小林:最後に、この企画の中で共通で皆さんにお聞きしたいことがあります。「あなたにとって温故知新とは?」です。高島さんやFUNagainの考える温故知新とは、一体なんでしょうか。

高島:明確な答えになるかわからないんですが・・・。FUNagainは、「The Circulation of Love!!」というスローガンを掲げています。文字通り、リサイクルショップなので、ものが循環していくわけですが、今の時代、循環(Circulation)というワードが、流行りの言葉的に、すごく消費されてしまっているように感じていました。薄っぺらい、パフォーマンス的な言葉ではなく、Circulationには本当に何が必要なのか。それを考えた時に、必要なのは「LOVE」、つまりは「愛着」だと思ったんです。誰かが大切にしてきたものは、これからも大切にされるだろう、と。

小林:私たち、温故知新のホテルづくりにも、とてもシンパシーを感じますよね。

松山:ですね。温故知新も職人、地域、オーナーの想いを受け継ぐことを、大切なコンセプトにしています。古いからいいというわけではなく、残っている理由がある。高島さんがおっしゃるように、大事にされてきたものは残っているんですよね。そういう意味では今の時代に残っているのは、もうそれだけで価値があるものと言えるのかもしれない。ホテルも、もちろん、一からつくる方が思い通りにできますし、簡単です。それでも、再生が決まったホテルや旅館に今の時代にはもう造れないだろう「匠の技」を見つけたりすると、長年お客さまを見守ってきた重みを感じるというか、理屈じゃなく「大事にしたい」と思ったりしますね。

小林:”温故知新”という言葉だけでいうと、古い=価値がある、とも受け取られてしまうこともあるように思うのですが、古いことが価値というわけではなく、そこにある脈々と続く”愛着”や”想い”を受け取り、繋いでいく。それが温故知新の本質なのかもしれないと感じました。

ぜひ、高島さんの温故知新を、実際にFUNagainのお店や、手がけていただいたホテルでも感じていただければと思います。今日はありがとうございました。

<取材協力>
FUNagainオーナー:高島大輔 / DAISUKE TAKASHIMA
セレクトショップのVMD、MDなどを経てインテリア商品を取り扱うリサイクルショップ〈FUNagain(ファンアゲイン)〉を千駄木にオープン。現在はショップ運営の他に、ホテルや個人宅のインテリアスタイリング業務も行っている。
Instagram /  HP

編集後記:(温故知新 プランナー 小林未歩

“古いもの”が、どんどん壊され、なくなっていくことに、悲しさを感じることがあります。もちろん、全てを残していくべきとは思わないですが、そこに存在していた誰かの想いや思い出なども、一緒に無くなってしまうと思うと、やりきれない寂しさがあるのです。

自分が大切に想っていたものがなくなってしまう悲しさは、大なり小なり、誰しも経験があると思います。一方で、自分が大切にしているものを、同じように誰かが大切にしてくれたり、好きになってくれるのは、純粋に嬉しい気持ちになりますよね。

私たち人間は、きっと、そんな”嬉しさ”のバトンを繋ぎながら生きてきたのではないかと感じます。消費社会が発展したことで、作り手との距離が遠くなり、まわりの人との関係性が希薄になるにつれ、誰かの想いを直に受け取る機会が少なくなってしまいました。そんな時代にもう一度、誰かの想いを受け取ることに目を向けてみる。きっとそこには、自分や誰かの喜びに繋がる、素敵な”循環”がある。実は、それが、”温故知新”の根っこなのかもしれない・・・。そんな風に感じた、今回の対談でした。高島さん、ありがとうございました。

”愛着”や”想い”を受け取り、繋いでいく、温故知新。<あの人の温故知新 vol.1>2023-08-03T16:25:31+09:00

「身近なものの豊かさを発見しよう」 フレンチの巨匠 アラン・デュカス氏が考える、これからのラグジュアリー【旅先案内人 vol.25】

普段、私たちの運営施設をご利用くださっているお客様を対象に、私たちの宿に関わる人々に焦点をあてたニュースレター、「旅先案内人」をお届けしています。
(温故知新 運営ホテル:瀬戸内リトリート青凪・壱岐リトリート海里村上・箱根リトリートföre &villa 1/f ・KEIRIN HOTEL 10・五島リトリート ray MUNI KYOTO等)
「旅先案内人」アーカイブはこちら

「MUNI KYOTO by 温故知新」3周年を記念して。デュカス氏と見つめる“食”の未来。

京都嵐山に位置する「MUNI KYOTO by 温故知新」は2020年8月に開業。フレンチの巨匠であるアラン・デュカス氏が設立したデュカス・パリによる2つのレストラン「MUNI ALAIN DUCASSE」と「MUNI LA TERRASSE」も併設され、施設開業と同時にオープンしました。

地元京都産をはじめ日本各地の食材を使用したディナーをご堪能いただけるガストロノミックレストラン「MUNI ALAIN DUCASSE」と、朝食・ランチ・ティータイムをお楽しみいただくカジュアルなテラス「MUNI LA TERRASSE」では、各国のアラン・デュカスのレストランで10年に亘り研鑽を重ねたアレッサンドロ・ガルディアーニがシェフを務めており、2022年、2023年の2年連続で「ミシュランガイド京都・大阪」で一つ星に掲載されるなど、高い評価をいただいております。

世界各国、そして日本でも、数多くのレストランを手掛けるデュカス氏。いくつもの功績を残しながらも、新しい挑戦をし続けるその探究心や情熱の原動力とは?彼のまなざしで見つめる、日本の食の魅力や、”これからのラグジュアリー”をテーマに、特別インタビューを実施、皆様にその内容をお届けします。

7月にはこの度の三周年を祝し、アラン・デュカス氏が来日。一流の料理と素晴らしい雰囲気で皆様をお迎えする特別なディナーを、7月27日(木)、7月28日(金)の二日間開催します。当日は、嵐山の景色を望むテラスでアラン・デュカス氏と共にシャンパーニュをお楽しみいただいた後、「MUNI ALAIN DUCASSE」にてシェフ、アレッサンドロ・ガルディアーニによる特別ディナーがスタートいたします。(ご予約はこちら。)

デュカス氏、そして、MUNI KYOTOのメンバーと、共に食の喜びを感じるひとときとなれば幸いです。

アラン・デュカス氏 特別インタビュー

MUNI KYOTOをはじめ、日本での展開を経て、日本の食材や日本の食文化をどのように感じていますか?

ー 私は30年以上前から定期的に日本を訪れています。そして、私の日本に対する情熱が途切れることはありません。それどころか、発見が多ければ多いほど、まだまだ発見があることに気づかされます。そうした中で、3年前のMUNI KYOTO by 温故知新のオープンは重要なマイルストーンです。なぜなら、京都というとても魅力的で、独自の個性を持った街に「MUNI ALAIN DUCASSE」という特別なレストランを作ることができたからです。

まず、日本料理の真似はしたくなかったです。それは無意味であり、どこか失礼にもあたると思ったからです。ですから、日本の最高の食材にフランスのテクニックを施し、料理に仕立てることにしたのです。日本には本当に素晴らしい食材がたくさんあります。でも、日本の食文化の特徴である「調和」のセンスは拝借しています。

多くの功績を残しながら、歩みを止めない姿勢に感銘を受けます。デュカス氏の活動の原動力となっているものや哲学があれば、お聞かせください。

ー 情熱と好奇心です。料理の伝統を学ぶこと、生産者と出会い、新しい味を発見するのが大好きです。そして、お客様に感動を与えるレストランを創ることも。

フードロスや環境問題、SDGsなどさまざまな課題が食業界を取り巻いていますが、これから先「レストラン」や「食」はどういった方向へ進むべきでしょうか。デュカス氏の考えや展望をお聞かせください。

ー 持続可能な開発目標を達成するために、食は重要な役割を担っています。私たちは先進国における今日の食のパターンが、単純に持続可能でないことに気づきつつあります。大規模な農業によって温室効果ガスが大量に発生し、多くの魚種が危険にさらされ、高度に加工された食品に有害な成分が添加され、多くの農家が後継者を見つけられずに姿を消しています。料理は、自然と食べる人の接点です。ですから、私たち料理人には重要な責任があります。川上では、持続可能な農業、漁業、品種改良を奨励しなければなりません。下流では、健全な食生活とは何か、つまり肉を減らし、脂肪、塩分、糖分を減らし、野菜や果物を増やすことだと、人々にもっと知ってもらわなければなりません。

パンデミックのピークも過ぎ去り、海外旅行やインバウンドも復活の兆しを見せています。これからの“旅”や、新しい時代の“ラグジュアリー“についてどのように変化をしていくのか、デュカス氏の考えや展望をお聞かせください。

ーローカリズムとナチュラリズムがその答えです。ローカリズムとは、「身近なものの豊かさを発見しよう」ということ。ナチュラリズムとは、レストラン、ホテル、ファッションなどといった高級な商品やサービスが、環境側面を考慮することを意味します。したがって、ラグジュアリーは、より持続可能で自然を尊重したものになるのです。

アラン・デュカスのファン、温故知新のファン、そして日本のゲストにメッセージをお願いします。

ーまず、皆様に心からお礼を申し上げたいと思います。皆様が私たちのレストランに関心を寄せてくださることは、私や私のチームにとって大変光栄なことです。そして、お互いのポジティブな気持ちがうまく混ざり合い、皆様が幸せなひとときをお過ごしいただけるよう願っています。

Alain Ducasse.

【MUNI KYOTO 3周年記念ガラディナー(7/27、7/28) 開催について】

開催日時:2023年7月27日(木)、7月28日(金)17:30〜
会場:MUNI ALAIN DUCASSE(京都府京都市右京区嵯峨天龍寺芒ノ馬場町3番)
料金:150,000円(税・サービス料込)/人
当日スケジュール:
–       17:30〜18:00 シャンパンタイム(この時間帯で、アラン・デュカス氏とのトーク、記念撮影などをお楽しみいただけます)
–       18:00〜 ディナー
予約受付開始日: 2023年6月15日(木)
ご予約方法:オンライン、または、お電話で承ります。

・オンライン予約サイトURL: https://pocket-concierge.jp/ja/restaurants/245377?seat_date_eq=2023-05-29
・お電話:075-873-7770(10:00~18:00)

※予約サイトについては6月15日(木)以降で詳細を公開、予約受付開始となります。
※お席には限りがございますので、お早目にお申込みください。

その他:「MUNI KYOTO by 温故知新」開業三周年記念特別ディナーと合わせて、宿泊をご利用される場合は、直接ホテルまでご連絡ください。

電話番号:075-863-1110 / Email:muni@muni-kyoto.jp

写真左から「MUNI ALAIN DUCASSE」エグゼクティブシェフ アレッサンドロ・ガルディアーニ、アラン・デュカス氏

「身近なものの豊かさを発見しよう」 フレンチの巨匠 アラン・デュカス氏が考える、これからのラグジュアリー【旅先案内人 vol.25】2023-07-11T13:53:28+09:00

箱根・仙石原から。”ローカル”発のパティスリーの挑戦【旅先案内人vol.24】

普段、私たちの運営施設をご利用くださっているお客様を対象に、私たちの宿に関わる人々に焦点をあてたニュースレター、「旅先案内人」をお届けしています。
(温故知新 運営ホテル:瀬戸内リトリート青凪・壱岐リトリート海里村上・箱根リトリートföre &villa 1/f ・KEIRIN HOTEL 10・五島リトリート ray MUNI KYOTO等)

この春、箱根の仙石原に温故知新が手がける複合施設「Hakone Emoa Terrace」が開業しました。私たちの運営ホテル 箱根リトリートからほど近い、「箱根ラリック美術館」に併設。レストランを新たにリニューアルし、ベーカリー&パティスリーを新設しました。

箱根ラリック美術館とコラボした、アートのようなスイーツ

今回のレストランの目玉のひとつが、ランチタイムに楽しめる”ジュエリースイーツビュッフェ”。美術館併設のレストランならではのメニューとして展開しており、フランスの工芸家ルネ・ラリックがジュエリー職人だったことから着想を得てスイーツに彼の物語を落とし込みました。見た目にも美しい、まるでアートのようなスイーツです。

箱根リトリートが位置する仙石原エリアは、美術館が点在するエリア。ホテルでは数年前から積極的にアートとコラボレーションした企画に取り組んできました。そのうちのひとつが、2020年に開催された箱根ラリック美術館の企画展にあわせた、”香水瓶”のスイーツのコラボ開発です。

ラリックが手がけたドラマチックな香水瓶の数々をスイーツで表現したこの企画。ウォルト社のためにてがけた5連作のうち「ダン・ラ・ニュイ」を除く4作品のスイーツを、箱根リトリートのパティシエ 兼 Hakone Emoa Terraceのスイーツ監修を務める大島 良之さんが手がけました。まるで、ホンモノそっくりな芸術品のようで、お菓子の表現力の可能性を感じずにはいられません。

形のないところから生み出されるスイーツの表現力は、ラリックの作品やアートの世界に非常に近しいものを感じます。芸術のようでもあり、私たちの日常にも寄り添う美しいスイーツ。今回は、そんなスイーツにスポットをあて、その甘くて美しい魅力を紐解きながら、パティシエの大島さんにお菓子作りの哲学や想いについて取材しました。

“スイーツとは、消える芸術品である”

お菓子というのは、食文化の中でも、味はもちろんのこと、”見た目”にも重点を置かれて発展してきた文化でもあります。

太古の時代から、人間の婚礼や祝いごとなど、華やかな場を彩ってきた歴史があるからです。時には、国をも巻き込んだ国家の政治戦略の一つとしてお菓子に力が注がれた時代も。象徴的なのは「お菓子大国」でもあるフランスです。

貴族がたびたび開いた食事・社交の場においてスイーツは、統治・外交の手段としても欠かせない存在でもあり、その甘美な美味しさと見た目は、人を惹きつけてやまないものでした。かの有名なマリー・アントワネットも大のお菓子好きだったとされています。当時、彼女の出身地であったオーストリアから多くの菓子類が持ち込まれ、デコレーションの技術などが伝わったそうです。

砂糖など製菓の材料が貴重で高価だった時代、生活の必需品でないスイーツは貴族・宮廷の華やかな文化と共に発展したことを考えると、現代のスイーツにも、きらびやかな文化の名残があることが納得できます。(マリーやルイ14世とほぼ同じお菓子を現代の私たちも口にしていると思うと、なんだかロマンを感じますよね)

生きるために必ずしも必要ではないスイーツ。しかし、スイーツのない世界を想像すると、味気なく寂しい・・・。お菓子は、私たちが豊かに生きるためになくてはならない存在ではないでしょうか。誕生日や特別な日、あるいは、何気ない日の大切な思い出のそばに。いつも身近な存在として、お菓子があるように思います。

「五感で楽しめるケーキ。記憶に残るケーキをつくりたい。その想いは今も昔も変わりません。」

パティシエの大島さんは、そのようにお菓子づくりへの想いを語ってくれました。

五感で味わうケーキは、甘い記憶と共に

製菓専門学校を経て、都内洋菓子店、ホテル、結婚式場、レストランのシェフパティシエを務め、現在は箱根の地でお菓子作りに取り組む大島さん。東京での修行時代から現在に至るまで、お菓子の捉え方が大きく変わったそうです。

「味覚には、甘味や酸味、苦味、塩味などいろいろありますが、修業時代は、その味覚の五角形の中でいかに戦えるか?が全てでした。しかし、働いているうちに、”おいしい”と同じくらい、大切にしたいことが見つかりました。

実は、”おいしい”って、本当に難しくて、人それぞれ感覚が違うし、数値化できるものではなく、捉え方ひとつで変わってしまう。

もちろん、”おいしい”ことにこだわるのは大前提ですが、味覚に加えて、視覚や嗅覚など、ほかの感覚もひっくるめて、五感で味わうケーキを提案したいと思うようになりました。例えば箱根だと、自然豊かな景色が眺められるという視覚情報や、空気も美味しいという身体的な感覚などです。」

「私は、“五感の真ん中”には第六感が開花すると考えていて、それを『曖昧な感覚』と呼んでいます。“おいしい”を感じる味覚こそ、平均化できそうでできない、とても曖昧なものです。理解し難いものを理解しようとする行為は、無謀なようでとても重要だと思います。みんなの”おいしい”をいかに平均化できるか?ということに、常にじっくり時間をかけて挑んでいます。

みんなの”おいしい”という味覚と、それ以外の五感の要素を組み合わせて、どうバランスを取るのか?それによって価値を上げることができるのか?と、いつも考えているんです。

『面白い』や『楽しい』を優先したテーマを立てて新作を考えたり、出会った人や食材からストーリーを仕立て上げてケーキで表現したり。味覚だけではないアプローチにも力を注いでいます。そのほうが私自身も楽しいですし。とにかく、食べた人の記憶に残る、そんなものづくりをしたいと思っています。」

スイーツは、味を含め、見た目・造形などの自由度と表現力が高いからこそ作り手の込める想い次第で、その土地やその場所その時の時間をより豊かに感じさせる力があるのかもしれません。

フランス菓子は、甘くない苦労を重ねて日本へと

「今作っているケーキも、自分の思い出と結びついたり、自分の原体験からインスピレーションを受けたものが多いんです。

私は愛媛出身なのですが、社会人になり東京に上京してフランス菓子を口にしたとき、『これが洋菓子かぁ!』と感動して。その驚きを表現したいなと思って作ったスイーツもあります。他にも、フランスにはじめて訪れた時に、食べたケーキや旅先で出会ったカヌレなど、これを日本でも再現したい!という想いで持ち帰ったものもあったり・・・。

ただ、フランス菓子や海外のお菓子のレシピを日本にそのまま持ち帰り再現するというのは、ほぼできません。素材の違いもありますし、法律や食に関するルールも異なるので、日本では使えない材料なんていうのもたくさんあるんです。」

「以前の仕事で、フランスのパリに本店があるパティスリーの日本進出の立ち上げを担当したのですが、これは本当に大変でした。フランス語のレシピを読み解いて、日本の技術で再現したり、素材の代用品を探したり、工夫に工夫を重ねて、どうやったら実現できるかを考える。異なる文化圏のスイーツを日本に持ってくるというのは、きっといつの時代も苦労したでしょうね。」

一筋縄ではいかない、スイーツの伝達や再現。私たちの元に届いているお菓子たちは、いくつものハードルを超えて日本へやってきたものなんだとハッとしました。『甘くて美味しい、この味を伝えたい』、いつの時代もそんな感動に突き動かされたお菓子を愛する人たちが、スイーツの文化を支え、深めてくれているのですね。

箱根の仙石原。”ローカル”発のパティスリーとして

大島さんのスイーツは、王道のフランス菓子をベースにしたものから箱根の地域から着想を得て開発したスイーツ、はたまた箱根ラリック美術館とのコラボスイーツまで、インスピレーションに溢れたものばかりです。素材にもこだわりながら、自由で遊び心あるスイーツを生み出せる場所として、箱根はとても良いフィールドだと大島さんは語ります。

「私が地方出身でもあるのが大きいのですが、地方の学生の誇り、希望になりたいという目標もあります。例えば、Hakone Emoa Terraceのような、風格溢れる美術館とコラボした店づくりなどがもっと広まり世の中に認められれば、パティシエの可能性もさらに広がる。地元や地域の若い人たちが『ここで働きたい!』と思えるような、魅力的なお店に高めていくことが、私にとっての地域への貢献かなと思っています。

「若い頃は私も東京に憧れ、学生時代は『絶対に東京へ!』という想いで上京しました。しかし、首都圏に住んでると、四季の移り変わりを日々感じることもなく、星も見えない。いつも下を向いて歩いていた気がします。都心では、ビジネスチャンスの隙間をみんなでギラギラ狙ってる感じがありますよね。パティシエとして”おいしいお菓子をつくる”という視点で箱根を見ると、神奈川と静岡の県境で、これだけいい素材が揃っているのに加えて、みんなが”闘ってない”感じが、ニュートラルで心地よく、豊かな雰囲気だなと。だからこそ、ものづくりに真摯に向き合える環境だと感じています。

儲かる・儲からないという評価軸ももちろん必要ですが、それだけではなく、なんの為にやるのか?社会にどう貢献できるのか?を、冷静に、かつニュートラルに考えられる環境で私自身も働きたいし、数字じゃ表せない豊かさを表現できる生き方がしたい。そこから、いいものが生まれるのだと思いますし、それが、今は箱根の地だと実感しています。」

都心からも程近い場所でありながら、自然を感じつつ生活でき、豊富な素材が手にはいる箱根。そんな街は、働き手・作り手にとっても、“リトリート”な場所なのかもしれません。“豊かな環境だからこそ、育まれるものがある”。これからも、ローカルなこの地だからこそできるものづくりを、スイーツや食を通じて発信していければと思います。

4/29より、美術館企画展示との特別コラボスイーツを提供

Hakone Emoa Terraceでは、4/29(土・祝)より、箱根ラリック美術館で開催される、常設企画展示「美しき時代(ベル・エポック)と異彩のジュエリー」とコラボレーションし、パティシエの大島さんが監修した、2種類の特別スイーツを施設内のOrient Expressで提供します。(※現地での要予約制)


<左>“流れる髪の女”に魅入られて ~Hommage to Woman with Flowing Hair~ <右>季節のスイーツ メタモルフォーゼのクッキーを添えて

個性的で華やかな時代を思わせるラリックによるジュエリー作品をモチーフに、パティシエが「食べるアートスイーツ」“Hommage to Lalique”を考案。ラリックの作品を注意深く観察して出来上がったスイーツは、まるでお皿の上に作品が展示されているかのような精巧なつくりです。企画展実施中の期間(4/29~11/26)、2種類の特別スイーツを施設内のOrient Express ティーサロンで提供します。箱根にお越しの際は、芸術を見て食べて楽しむ、アートな1日をお過ごしいただければ幸いです。

企画展示及び特別スイーツの詳細はこちら
(※写真左側のラリック作「流れる髪の女」を模したスイーツは、土日祝数量限定にて提供)

箱根・仙石原から。”ローカル”発のパティスリーの挑戦【旅先案内人vol.24】2023-07-12T17:44:47+09:00

IKI’s GIN PROJECT.海里村上×壱岐の蔵酒造 #3【旅先案内人 vol.23】

観光客が激減する中、どうにかして「壱岐の良さを遠方の方にもお届けしたい」という強い思いではじまった「IKI’s GIN PROJECT.」
魅力的な食材の宝庫壱岐島のフードロス問題にも着目し、地元の酒蔵、農家、漁業も巻き込んだ一大プロジェクトの奮闘を連載でお届けします。

Made in 壱岐とは?

連載最後は、JA壱岐市の松嶋さん、アスパラガス農家の平野さん、壱岐の蔵酒造の石橋さんに聞いた壱岐の今後について。そしてそれぞれの考える「Made in 壱岐」についてお聞きしました。番外編では壱岐の蔵酒造の焼酎造りにお邪魔した様子をご紹介します。

意外と多い?壱岐のアスパラガス農家

壱岐島内にアスパラガス農家は今、70件ほどですかね?。最近は、若い人や新しい人が島にやってきたりもしています。」とアスパラガス農家になって11年の平野さんが教えてくれました。私は、その数字が多いのか少ないのかピンとこなかったのですが「壱岐の島の面積を考えると、70件のアスパラガス農家があるのは多いと思います。」と松嶋さん。確かに、壱岐の面積は138k㎡と山手線内側の面積の約2倍ほどの島です。その広さに70件もあるとは驚きました。平野さんは「多いと思います。アスパラガスは割と通年で収穫できるのですが、11月・12月・1月はアスパラガスだけではやっていけないので、ブロッコリーやカボチャ、落花生なども育てています。雇用の問題もあるので。家族農家さんであればその点は問題ないかもしれませんが。」壱岐は食料自給率の高さが特徴の島です。雇用の面だけでなく、食材の豊かさにおいてもこのような農家さんの努力によって、島が支えられていることを実感しました。

島内で賄う、循環型農業を目指す

農業において堆肥を島内で賄うことができるのは壱岐の強みだと、JA壱岐市の松嶋さんと、アスパラガス農家の平野さんが教えてくれました。「農業に必ず必要となってくる、堆肥ですが他の地域では堆肥が足りず入手に困っているところもあるようです。その点壱岐は、壱岐牛のおかげで堆肥が足りず困ることはほとんどありません。」


訪れた際、ちょうど堆肥をまいている最中でした

牛の堆肥でアスパラを育てて、アスパラの残りかすや米のわらとかを牛が食べてまた堆肥になる。壱岐の豊かな土壌と自然ですくすく育った壱岐牛がいるからこそ、栄養分がたくさん必要なアスパラがよく育つと言っても過言ではないですよね。「堆肥を探したことがないですね」と平野さん。


JA壱岐市の松嶋さん(左)とアスパラガス農家の平野さん(右)

今回、クラフトジン「KAGURA」の開発がきっかけとなり、ロスになってしまったアスパラガスの繊維を使った和紙も誕生しました。(海里村上×壱岐の蔵酒造 #2参照 )
現在ある農業の循環の中に、このようにフードロスの問題への取り組みで生まれた加工品が追加されてくことで、壱岐島内により良い循環を生み出す事ができると感じました。

新しいことに挑戦し続ける

壱岐の蔵酒造の石橋さんは、この「IKI’s GIN PROJECT.」の目的のひとつに壱岐の雇用を増やしたいという想いがあると教えてくれました。「壱岐島内で何か新しいことをしなければ、壱岐島内の人が皆、島外に出て行ってしまうと思うんですよね。島内の人口が減ってしまうと、ここでお酒を造ることもできなくなってしまうので。焼酎以外の部分でも新しい何か。例えば観光などもやっていかないと生き残っていけない部分があると思っています。」


「KAGURA」を両手に微笑む石橋さん

「今後については、クラフトジンは夏にブルーボトル、冬に今回のアスパラ和紙ラベルのボトルで年に2回ほど出していく予定です。もちろんボタニカルはその都度変わってくるので味わいは毎年少しずつ変わってくるかと思います。さらにこの2種類に加えて、プレミア的な商品を出すことも考えています。」すでに“幻のクラフトジン”である「KAGURA」のプレミア商品、今から期待してしまいます。「クラフトジン以外にも今後やりたいなと思っていることがあるのですが、まだまだ実現するかどうかの段階です…。さらに色々な農家さんを巻き込むことのできる商品の開発に向けて動いていきたいと考えています。」と石橋さん。

「IKI’s GIN PROJECT.」だけでなく、新商品の開発など精力的に次々と新しいことに挑戦していく石橋さんの姿は、きっと壱岐の皆さんにもさまざまな影響を与えているのではないでしょうか?
実際に、第2弾「KAGURA」の製造にあたり壱岐の蔵酒造の社員から、「ロスをコンセプトにしているのに廃棄される化粧箱をつけるのはコンセプトとズレているのではないか」と指摘があったそう。当初では考えられなかった、社内のクラフトジンへの姿勢が石橋さんの努力を物語っているように感じました。

Made in 壱岐

「焼酎造りにおいては、お米は基本壱岐産、麦はどうしても壱岐産では賄えない部分があります。でもやはり全て壱岐産のもので造ることができるのが理想。色々な農家さんから買って壱岐島内で回していくさまざまな仕掛けを作り、ゆくゆくは全て壱岐島内のもので造る『Made in 壱岐』を目指していきたいと思います。」と石橋さん。
JA壱岐市の松嶋さんとアスパラガス農家の平野さんは、「農業においては、今現在でも賄えている部分は多いと思いますが、やはり循環型農業を極めていき、より島内でいい循環を生む事が『Made in 壱岐』だと思います。ロスになってしまっているものの加工も含めて」

SDGsな活動や、フードロス問題の解決に向けて挑戦をする中で、壱岐に人を呼び込み島内を盛り上げる。今はまだ、全て島内のもので生産することは難しい現実はあるが、その上で全て壱岐産のもので生産する事ができる仕掛けを生み出したい。さまざまな角度から「Made in 壱岐」を目指して奮闘する皆さんの熱い想いに触れることができました。

壱岐神楽、大大神楽にて「KAGURA」が奉納


住吉神社

2022年12月20日に、住吉神社にて行われた大大神楽が奉納。「壱岐神楽」は、約700年の古い伝統と歴史をもつ神事芸能で、国指定重要無形文化財に指定されています。
壱岐の神社に奉職する神職にしか舞うことや音楽を演奏することが許されていない神聖なものとして知られ、大大神楽は壱岐神楽の中でも最も厳粛・丁重なもの一般的にはお米を奉納するものですが、形を変えてお酒やお餅を奉納する場合もあるそう。ジンも麦から造られており、五穀(米・麦・あわ・きび・豆)を奉納するという意味をもつため、2022年の大大神楽で「KAGURA」が奉納されたとのこと。

「KAGURA」という名前、「猿田彦命」(サルタヒコノミコト)・「八咫烏」(ヤタガラス)のボトルデザインに加えて、神社での奉納。「“神”と共にある、幻のクラフトジン」と言えるのではないでしょうか…?

壱岐の魅力を詰めこんだ「KAGURA」第2弾の発売はきたる3月。
ぜひ、ご期待ください。


住吉神社に奉納された「KAGURA」

番外編<壱岐の蔵酒造の焼酎造り:朝櫂き>

壱岐の蔵酒造の石橋さんに焼酎造りを一部見学させていただきました。

見学させていただいたのは、櫂入れ(かいいれ)という工程。
櫂入れとは、櫂棒でかき混ぜる操作のこと。 櫂入れにより醪の溶解と発酵作用との調和を図ります。


大寒波だったため、気温差で湯気が

かき混ぜるとぷつぷつという音と共に、近づいてみると、パン生地の発酵段階のような香りが漂います。個人的にはアルコール感というよりもパン生地みたいだな…。という印象を受けました。いい香り。


ぷつぷつと呼吸している様子

「この作業は非常に危険な作業なため、必ず数人で行うようにしています。この中に落ちてしまうと一酸化炭素中毒になってしまうので。」と石橋さん。


作業を見つめる石橋さん

普段、見ることのできない焼酎造りの工程を見学するという貴重な体験をさせていただきました。

「IKI’s GIN PROJECT.」

観光客が激減する中、どうにかして「壱岐の良さを遠方の方にもお届けしたい」という強い思いではじまった「IKI’s GIN PROJECT.」
魅力的な食材の宝庫壱岐島のフードロス問題にも着目し、一大プロジェクトの奮闘を、海里村上の貴島さん、壱岐の蔵酒造の石橋さん、JA壱岐市の松嶋さん、アスパラガス農家の平野さんのお話を聞き、連載でお届けしました。
今後の「IKI’s GIN PROJECT.」や新たな取り組みにもぜひ、ご期待ください。


「Japanese Iki Craft Gin KAGURA」

IKI’s GIN PROJECT.海里村上×壱岐の蔵酒造 #3【旅先案内人 vol.23】2023-07-12T18:31:00+09:00

IKI’s GIN PROJECT.海里村上×壱岐の蔵酒造 #2【旅先案内人 vol.22】

観光客が激減する中、どうにかして「壱岐の良さを遠方の方にもお届けしたい」という強い思いではじまった「IKI’s GIN PROJECT.」
魅力的な食材の宝庫壱岐島のフードロス問題にも着目し、地元の酒蔵、農家、漁業も巻き込んだ一大プロジェクトの奮闘を連載でお届けします。

第1弾の反響を受けて

「壱岐島の味を全国に届けるクラウドファンディング」で目標金額に対し200%を達成し、その後の一般発売でも1か月で売り切れ、知る人ぞ知る“幻”のクラフトジンとなった壱岐リトリート 海里村上壱岐の蔵酒造の共同企画で完成した、第1弾の「Japanese Iki Craft Gin KAGURA」(以下「KAGURA」)。

第1弾「KAGURA」の反響について、「いちごの香りがするような他にはないようなクラフトジンなので、『飲みやすいし美味しい、もう在庫はないんですか?』などの声をたくさんいただきましたし、初めてのクラフトジン造り、クラウドファンディングやさまざまなメディア露出の影響もあり多くの方に注目いただいたと感じています。何より、焼酎文化が根付いている壱岐の人がこんなにクラフトジンを飲むというイメージが無かったので僕自身、大変驚きました。」と語ってくれました。


壱岐の蔵酒造:石橋さん

もちろん多くのメディア露出により島外の方に認知され、壱岐の新たな取り組みとして取り上げられた。というのも事実としてありますが、“壱岐の蔵酒造が造るクラフトジンという新たな取り組み”が注目を集めたということは
「何か新しい取り組みをしていかなければならない、島全体をもっと盛り上げたい。」という強い想い。
島民の皆さんの中にあった想い描いていたイメージが、この企画を通して形になったことで、より一層注目を集め反響を呼んだのではないかと思います。

第2弾「Japanese Iki Craft Gin KAGURA」3月発売


取材時は壱岐でも珍しいほどの大寒波でした

大きな反響を呼んだ第1弾「KAGURA」に続き、2023年3月に第2弾「KAGURA」の販売が決定。
第1弾とは違う、新たな魅力について教えていただきました。

柑橘と生姜の香るスパイシーな味わい

第1弾の「KAGURA」は、イチゴと壱岐焼酎の原料である米に由来したほんのりとした甘味が優しいフルーティーな味わいが特徴でしたが、「第2弾の「KAGURA」は、生姜と柑橘を使用したことで、飲み始めはフルーティーで柑橘のすっきりとした味わいですが、その後の鼻にぬける生姜のスパイシーさが特徴となっています。第1弾と比べるとすっきりとしてスパイシーな印象を受けるかと思います。」と教えてくれました。

SDGsに貢献、アスパラの繊維を使用したラベル

第1弾の「KAGURA」と大きく違う点は、ラベルのデザイン。「第1弾は壱岐の青い海をイメージしたブルーボトル、第2弾は透明のボトルにロスになってしまったアスパラガスの繊維を使用した和紙ラベルを巻きました。」


第1弾と第2弾「KAGURA」

アスパラガスは壱岐の名産品のひとつですが、出荷する際に長さを揃えるためにカットしてしまうため、捨てられてしまう部分が多いのだそう。どうして和紙にするアイデアが生まれたのかについて
「アフリカのザンビアというところと福井県の越前和紙の工場が、バナナの繊維を和紙にしているという話をたまたま耳にして、バナナでできるならアスパラガスでも和紙に出来るかもしれないと思い今回のラベル制作に至りました。」と石橋さんが教えてくれました。偶然の出会いから生まれたアスパラガスの和紙が第2弾の「KAGURA」を飾ってくれています。

島全体で、フードロス問題に向き合うきっかけ

第2弾のラベルにアスパラ和紙を使用しているとのことで、JA壱岐市の松嶋さん、ご紹介いただいたアスパラガス農家の平野さんからお話を伺いました。

まず、第1弾の「KAGURA」について、松嶋さんは、「飲みました。ただ、クラフトジンというもの自体に馴染みがないので味についてはうまく表現できないのが正直なところです。普段飲まないので…。第2弾も出るということなので、少しづつクラフトジンの味について知っていきたいと思っています。」と話してくれました。


JA壱岐の松嶋さん

壱岐のアスパラガスは、データとノウハウの蓄積、新技術の搭載によってさらに壱岐産アスパラガスの質と評価が向上し、2011年には日本農業大賞も受賞。旬は、春と夏。旬の時期のアスパラガスはとても柔らかく、松嶋さんによるとバター醤油で食べるのがオススメとのこと。一緒に取材をまわったスタッフも大きく頷いていました。東京にも出荷しているということなので、旬の時期に見つけた際にはぜひオススメの調理法で食べてみようと思います。


取材に伺った1月下旬はまだ顔を出していませんでした

そんな壱岐の名産である、アスパラガスの廃棄量は年間30トンにのぼるそう。「KAGURA」の第2弾は、ロスになってしまったアスパラを使用した和紙を作り、ラベルとして使用しているというお伝えすると「確かに、アスパラガスの繊維感を生かして和紙を造るというのはとてもいいアイデアだと思います。アスパラガスのロスの問題は私たちも深刻だと感じていて、さまざまな方法でロスを減らす方法を試してきました。しかし、どうしてもアスパラガス独特の青臭さだったり加工した時の色合いがあまり食欲をそそられなかったり・・・つまづいてしまうことが多く、なかなか難しいと感じている現状です。」と松嶋さん。


2月上旬に撮影していただいた、顔を出してきたアスパラガス

「壱岐の蔵酒造の石橋さんや海里村上さんの取り組みがもっと認知を広げて、きっかけとなり島全体でより一層フードロスの問題に取り組んでいけたらと思っています。」松嶋さんの言葉に、平野さんも頷きます。

島民への認知拡大を考える

「海里村上さんとの共同企画というイメージが、島内だと少し敷居が高く感じてしまい、なかなか「KAGURA」の購入まで踏み出せない方も多いかもしれません。さらにクラフトジンというあまり島民の皆さんに馴染みのないジャンルなので。」と話してくれたのは、壱岐でアスパラ農家を始めて11年の平野さん。クラフトジンというジャンルが、新しく興味を惹かれるのは確かだが焼酎に慣れ親しんできた島民の皆さんにとっては、手が出しづらいという現実もあるのかもしれません。


アスパラ農家の平野さん

「確かに、壱岐の蔵酒造の石橋さんの取り組みを知ってほしい、もっと島内の人に認知してほしいと思います。」と松嶋さん。島内にはこのプロジェクト自体を知らない人がまだまだたくさんいるとのこと。SNSで言えば、InstagramよりもFacebook、WEBよりも紙媒体。壱岐新聞に記載の情報はより多くの島民の元に届くそう。「例えばですが、自分で予約して一本買うのは敷居が高いけれど、行ったお店に「KAGURA」が置いてあり、飲み方の紹介などがあれば一杯グラスで飲んでみようかな。と思うかもしれません。」「お店によく貼ってあるPOPとかね」・・・


平野さんのビニールハウス

島民への認知を広げるためにどのようにすれば良いかを、さまざまな観点から議論するお二人の姿をそばで拝見し、IKI’s GIN PROJECTへの期待感と農協や農家さんの、島全体でフードロス問題を少しでも解決したいという強い想いを感じました。

今後について

次回、松嶋さんと平野さんから、壱岐の農業について。石橋さんから壱岐の蔵酒造の焼酎造り、今後の「KAGURA」や新しい取り組みについて。それぞれご紹介いたします。

IKI’s GIN PROJECT.海里村上×壱岐の蔵酒造 #2【旅先案内人 vol.22】2023-07-28T12:47:46+09:00

IKI’s GIN PROJECT.海里村上×壱岐の蔵酒造 #1【旅先案内人 vol.21】

観光客が激減する中、どうにかして「壱岐の良さを遠方の方にもお届けしたい」という強い思いではじまった「IKI’s GIN PROJECT.」
魅力的な食材の宝庫壱岐島のフードロス問題にも着目し、地元の酒蔵、農家、漁業も巻き込んだ一大プロジェクトの奮闘を連載でお届けします。

壱岐の良さを遠方にも届けたい。

福岡県博多港から高速船利用で1時間ちょっとで向かうことのできる九州の離島、壱岐。壱岐と聞いて皆さんは何を思い浮かべるでしょうか?
豊かな自然、海、食材、焼酎、神社、歴史…。


コロナの影響を受け全国的に観光客が激減。観光産業が大打撃を受ける中、壱岐リトリート 海里村上が位置する長崎県の離島、数多くの魅力をもつ壱岐でも同じように観光客が激減しました。

観光客が激減する中、どうにかして「壱岐の良さを遠方の方にもお届けしたい」という強い思いで、地元の酒蔵、壱岐の蔵酒造株式会社×壱岐リトリート 海里村上の共同企画が始動。壱岐の蔵酒造の石橋さん、海里村上の貴島さんからお話を伺いました。

海里村上と壱岐の蔵酒造の共同企画【IKI’s GIN PROJECT】

【IKI’s GIN PROJECT:クラフトジンプロジェクト】
「壱岐の良さ、壱岐焼酎の良さ」を遠方に届けること。そして、SDGsな観点から島のフードロス問題にも着目。
焼酎が苦手な人でも飲みやすいという壱岐の蔵酒造の焼酎をスピリッツ、壱岐の豊富な食材たちの残念ながらロスとなってしまった食材を地元農家さんや農協などの協力を経てボタニカルとして有効活用。
これぞまさに「made in 壱岐」というクラフトジンを商品化する共同企画。


壱岐の蔵酒造


壱岐リトリート 海里村上

挑戦が生んだ「Japanese Iki Craft Gin KAGURA」

プロジェクトがスタートしたのは、2020年の春ごろ。
なぜ、クラフトジンというジャンルに目をつけたのか。「壱岐って実は麦焼酎発祥の地なんです。僕も壱岐島にきて初めて知ったんですが、とても飲みやすくて香りもいいんです。でもなかなか若い人に届かないなと。そこで、ブームになっているクラフトジンを焼酎をベースに造れないかなと思ったんです」と海里村上の貴島さんが語ってくれました。
確かにここ数年でクラフトビール、クラフトジン 、クラフトコーラなどが流行しており多くの商品を目にする機会が増えたように感じます。

また、理由としてその「自由さ」が魅力だと教えてくれました。

「ジンは他のスピリッツと比べると割と自由に造ることができるんですよね。壱岐の蔵酒造の癖のない飲みやすい焼酎と相性がいいのはもちろんですが、クラフトジンはベースとなるお酒(ベーススピリッツ)に、ボタニカルを加えて蒸留することで香りづけしています。そのボタニカルに、ロスになってしまっている壱岐産の食材を使用すれば、いい商品になるのではないかと考えました。」

壱岐焼酎の良さを生かしながら、島のフードロスを減らす何かを考えた時、クラフトジンが流行していた。着目した理由にも納得です。

壱岐の蔵酒造の石橋さんは、「島の活性化を含め、何か新しいことに挑戦していかなければならないと感じていました。焼酎は、一部の農家など狭い範囲にしか貢献ができませんが、ジンにすることでボタニカルが必要となり、さまざまな農家さんを巻き込んだ企画にすることができる。当初は、『焼酎があるのになぜジンなのか?』となかなか社員の気持ちもついて来ず苦労もしましたが、2021年3月頃に行ったクラウドファンディングが成功したことで社員の士気も高まり、ジン造りに積極的に参加してくれるようになりました。」

IKI’s GIN PROJECTにより完成した、「Japanese Iki Craft Gin KAGURA」(以下「KAGURA」)は「壱岐島の味を全国に届けるクラウドファンディング」で目標金額に対し200%を達成しています。その裏にある、石橋さんや貴島さんの苦労、その他社員、農家さん、農協などの想いがあっての商品完成、このクラウドファンディングの結果は必然であるかのように感じます。完成した第1弾の「KAGURA」はその後の一般発売でも1か月で売り切れ、知る人ぞ知る“幻”のクラフトジンとして、壱岐の蔵酒造と海里村上の企画は本格的に形となりました。

「Japanese Iki Craft Gin KAGURA」の特徴

壱岐リトリート 海里村上の料理長とソムリエが監修したジンは体にスッと染み込む優しい味わい。ベースの壱岐焼酎に壱岐産のボタニカルを漬け込み、再び蒸留して造る、麦焼酎発祥の壱岐ならではの和食に合うクラフトジン。

「味の配合やボタニカルの選定は共同で行いました。漬け込んだボタニカルには、イチゴ、橙、麗紅、はるか、ゆず、はちみつ、アスパラ、モリンガ、木の芽、島の特産品である雲丹の殻、海里村上の温泉、ジュニパーベリー。まずは思いついたものはなんでも入れてみようと、試作を繰り返していく中でボタニカルは決定しました。」と教えてくれました。海里村上の温泉や雲丹の殻…。島の魅力や壱岐焼酎の魅力を肌で感じた貴島さんや、壱岐で育った石橋さん、料理長やソムリエの力が集結して生まれたアイデア力とその味を見極める力に脱帽です。


試飲会の様子

イチゴと壱岐焼酎の原料である米に由来したほんのり優しい甘味と、その他の素材によって生み出されるジン特有の苦みにより「KAGURA」独特の複雑なアロマが広がります。実際に海里村上の食事にて「KAGURA」ならではの和食とのマリアージュを楽しむことができます。


和食に合うジン

「神宿る島」をキャッチフレーズに

第1弾のボトルデザインは壱岐の蔵酒造の島生まれ島育ちのスタッフが担当し、どこまでも青い壱岐の美しい海と、約700年近く受け継がれてきた伝統と歴史を持つ壱岐の神事芸能・神楽をデザイン。


第1弾:「Japanese Iki Craft Gin KAGURA」

壱岐は神社密度が日本一と言われており、島内の神社は神社庁に登録されている神社だけでも約150社。その他の神社、祠(ほこら)を含めると約1,000社にもなるそうです。そんな壱岐の神社で代々続く「壱岐神楽」は、約700年の古い伝統と歴史をもつ神事芸能。壱岐の神社に奉職する神職にしか舞う事や音楽を演奏することが許されないきわめて神聖なもので、国指定重要無形文化財にも指定されています。

「壱岐でしか造れないこのクラフトジン、そんな神楽から名前を拝借しました。ボトル中央に描いたのは男嶽神社に“導きの神”として鎮座している「猿田彦命」(サルタヒコノミコト)です。できる限り壱岐産のものを使用し「made in 壱岐」にこだわることに意味があると思っています。」と石橋さん。石橋さんの壱岐を愛する想いが詰まりに詰まったクラフトジン「KAGURA」には神宿る島の力が十分に反映されているに違いありません。

「Japanese Iki Craft Gin KAGURA」は次のステップへ

“幻”のクラフトジンとして即完売した「Japanese Iki Craft Gin KAGURA」きたる2023年3月に、第2弾「KAGURA」の発売が決定。

「第2弾は、生姜のスパイシーさを感じることのできるジンになっています。」「ラベルの素材にもこだわり、第1弾とはまた違う魅力のある「KAGURA」になりました。」と貴島さんと石橋さんは教えてくれました。

第1弾とはまた少し違う、「made in 壱岐」にこだわるジン造り。
新たな魅力を次回ご紹介いたします。

IKI’s GIN PROJECT.海里村上×壱岐の蔵酒造 #1【旅先案内人 vol.21】2023-07-28T13:02:36+09:00

輝く手仕事の在るところ。長崎・ガラスの光。<瑠璃庵・538 ステンドグラス工房>【旅先案内人 vol.20】五島リトリート ray#6

普段、私たちの運営施設をご利用くださっているお客様を対象に、私たちの宿に関わる人々に焦点をあてたニュースレター、「旅先案内人」をお届けしています。

vol.15】から、数回に渡り、五島列島にまつわる連載を配信しております。この夏新しく開業した五島リトリート ray。五島列島の”地域の光”をご紹介していきます。

(温故知新 運営ホテル:瀬戸内リトリート青凪・壱岐リトリート海里村上・箱根リトリートföre &villa 1/f ・KEIRIN HOTEL 10・五島リトリートray)

日本のガラス文化はじまりの地、長崎。

いまや、私たちの生活にかかせない『ガラス』ですが、その歴史は古く、今から 5000年ほど前に、人類がつくった物質であるといわれています。日本でも太古からガラスの成形・加工が行われていましたが、ガラス文化が花開いたのは16世紀半ば以降。海外との貿易の玄関口として発展してきた長崎の地にポルトガルからその技術や工芸品がもたらされ、全国に広がっていきました。

ガラスと縁が深いこの地で、ガラス文化を伝える2人のガラス職人に出会いました。ガラス工房を40年以上営む長崎市の『瑠璃庵』、五島列島で唯一のステンドグラス工房『538 ステンドグラス工房』です。ガラス文化が伝わったこの地で紡がれる、輝く手仕事をご紹介します。

暑い日も、寒い日も。1000度を超える炎と対峙する。

じめっと蒸し暑い陽気で、梅雨もいよいよ本番かという6月の昼下がり。長崎市内でガラス工房を営む瑠璃庵を訪ねました。

「ちょっと、暑いんですけど…」

少し申し訳なさそうに工房兼お店に向かい入れてくれたのは、ガラス職人の竹田 礼人(あやと)さん。工房とショップが併設された店舗の奥には、職人さんたちが汗を流しながら”吹きガラス”の製作に取り組む姿が。ガラスを溶かすための大きな”溶解炉”は絶え間なく火を炊いており、1000度を超える熱さです。長崎・五島列島にあるホテル『五島リトリートray』では、オリジナルの器やグラスの製作をお願いしており、客室やレストランで使用しています。今回はその製作風景を見学しにやってきたのですが、工房の熱気がお店の端まで伝わってきました。


ガラス職人の竹田 礼人(あやと)さん

炉に入れては取り出し、空気を吹き入れ形を変え、何度もガラスを重ねて作る吹きガラスの作品。窯の近くはまるでサウナのようで、じっとしているだけでも汗が流れ落ちてきます。

「うどんやそばを打つ人が、日によって毎回素材の様子が違うと言いますが、ガラスも同じです。ガラスは温度が下がると割れてしまうため、冬は炉の外に出して整形できる時間が短い。逆に夏場は、外に出しておける時間は長いけれど、暑さとの戦いです。熱を持ったガラスは1000度以上あるので、汗が一筋垂れるだけでガラスが割れてしまう。それほど繊細で、同じものはひとつもないんです。」

ガラスは海から生まれている。

「瑠璃庵の特徴は、砂を溶かしてガラスをつくるところからやっていることです。最近の主流ではガラスの塊を溶かしてつくる人も多いし、その方がガス代なども安上がりなのですが、ガラスの原材料からこだわることで、美しさを引き出しています。」

そう語りながら見せていただいたのは、ふかふか、サラサラの美しい”砂”。これが、ガラスを作るための最も大切な原料の1つです。現在は、タスマニア産の珪砂(けいしゃ)を使用しているそうですが、江戸時代などのガラス職人は、日本の海岸の砂を使っていたそうです。

「砂に、色々な成分をいれて透明度を出しているのですが、元の砂が良くなければどうにもなりません。日本の砂もこんな風に美しかった時代があったんですね。現代ではもう汚くて使えなくなってしまいました。世界的にも、美しい砂が取れる場所がどんどん消えています。地球の美しさとガラスの美しさは、いつも隣り合わせなのかもしれません。」

普段、なかなか目にすることのない、ガラスの”原料”。美しい海の砂から作られるということを知ると、ガラスの水のような透明感やきらめきの秘密が、わかったような気がします。

「ガラスは、海から生まれているんですよ。」

竹田さんの言葉が、なんともロマンティックに聴こえました。

長崎でつくらにゃいかん!この地でつくり続ける理由。

「瑠璃庵は、父と私、親子二代でものづくりをしていています。もともと父は、建築系の仕事をしていたのですが、37歳の時に会社を辞めて、日本で初めてのガラスの大学に通いなおし、一からガラスについて勉強して瑠璃庵を創業しました。その頃、長崎で販売されていたガラス製品やお土産は、ほぼ海外製のもので長崎で作られているものは、ほぼなかったそうなんです。」

長崎のガラス文化が失われていた…そんな事実を目の当たりにしたお父様の竹田 克人(かつと)さん。”長崎のガラス工芸に再び火を灯したい”そんな想いを抱き、導かれるようにガラスの世界に飛び込みました。現在、お父様の克人さんはステンドグラス職人として、息子の礼人さんは吹きガラスの職人として活動しています。今では、世界遺産にも登録されている長崎市内の『大浦天主堂』の修復を手がけるなど、確かな腕前と熱い想いで、長崎のガラス文化を伝えています。

「長崎でやるというのが、一番のこだわりであり、意味があると思っています。生まれた土地だし、歴史もあるし、ここしかない。」

「長い間、同じ場所に工房を構えていると、嬉しい出来事もあります。修学旅行生でガラスづくりを体験した子が、先生になって自分の教え子を工房に連れてきてくれたんです。“当時のあの感動を忘れられなくて、教え子にも体験させたい。今もその作品をもっている”と話してくれて。そうやって、ガラスを通じてモノや想いが続いていってくれているのを実感しました。モノには必ず、思い入れやエピソードが宿ります。手作りで作ったモノだからこそ、大切にしようと思ってくれたり、何か感じ取ってもらえるものがあるんじゃないかと、信じています。」

“大切にしたくなるもの”、それは、使うたびに作り手の顔が思い浮かんだり、自分の思い出にそっと寄り添ってくれるものではないでしょうか。丁寧に作られた瑠璃庵のガラスの作品たち。ガラスの先にいる職人さんたち、あるいは、ガラス文化を伝えた太古の人々に想いを馳せながら、長く大切に使っていきたいと感じます。

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【ガラス工房:瑠璃庵】
住所:長崎県長崎市松が枝町5-11
TEL:095-827-0737
営業時間: 9:00-18:00
休館日:毎週火曜日
HP:http://www.rurian.com/
Instagram:https://www.instagram.com/rurian_glass_studios_inc/
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五島の片隅で営む、島にひとつだけのステンドグラス工房。

穏やかな海の目の前に、ポツンと佇むレンガ造りの建物。福江島の北西部に位置する三井楽町というエリアに、島唯一のステンドグラス工房があります。ガチャリと扉を開けると、小柄な女性が大きな色ガラスと対峙する姿が。真剣なまなざしに、思わず息を飲みます。


『538 ステンドグラス工房』の濱崎由美子さん

出迎えてくれたのは、島でステンドグラスの製作を行う『538 ステンドグラス工房』の濱崎由美子さん。たくさんのガラスやパーツに囲まれた空間は、手仕事の臨場感を感じられ、なんだかわくわくしてきます。

三井楽教会のステンドグラス制作

工房がスタートしたのは、今から25年前。五島出身の方が工房を開き、当時、同エリアにある「三井楽教会」のステンドグラスを製作するという大きなプロジェクトが進行していました。

「教会といえば、ステンドグラスのイメージがあると思うのですが、三井楽教会には一切なかったんです。正確にいうと、1代目の教会にはあったのですが、建て替えで2代目になった際になくなってしまったようです。工房をはじめられた方が『とても寂しい、やっぱり教会にはステンドグラスがほしい』と感じていらしゃって。そこから、プロジェクトが立ち上がりました。」

工房がスタートしてから約一年後、濱崎さんは工房の生徒さんとして、活動に加わります。当初は、自宅のドアの一部にステンドグラスを飾りたいと考えており、個人的な製作をするために生徒募集の張り紙をみて参加をしたそうです。

「私が参加した時、既に三井楽教会のステンドグラスの製作の話がありました。メンバーは9名、私含めキリスト教の信者さんは2人しかおらず、全員ステンドグラスやガラスの知識もない初心者。大阪から先生を呼び、0から教わりながらの製作です。基本的にはボランティアとしての活動だったので、各々が空いている時に進めました。その頃私は市役所の職員だったので、仕事が休みの土日を利用し参加していました。5年で完成させる予定で、最終的には6年かかりましたね。」

ステンドグラスの製作は、細かいデザインに合わせガラスをカットしたり、気の遠くなるような作業もあれば、ケイムというガラスを嵌め込む固い鉛線をグイッと曲げるような力仕事も必要です。デザインに合わせてミリ単位で調整をしていきます。

「もちろん不安もありました。教会に納める予定のステンドグラスは、全部で34枚。仕事もしながらだったので、5年も続けられるかな、と。でも、1枚完成させるとマインドが変わりました。完成させる喜びを体感した時、本当に疲れを忘れましたね。ああ、綺麗だなあと心が動きました。」

三井楽教会のステンドグラスには、キリスト教の歴史、日本、そして五島のキリスト教の歴史が表現されています。その場所に宿るストーリーをガラスに込めて作られた大作のステンドグラスは、今や街の立派なシンボルです。

希望だ。これがあれば、私は生きていける。

工房を立ち上げた方は、三井楽教会の作品の製作期間中に身体を悪くされ、完成を見届けることなくこの世を去ってしまったそう。その後、工房では濱崎さんが中心となり、教会のステンドグラスの修復や制作を手がけています。それまでデザインやものづくりについて学んだことがなかった濱崎さんでしたが、いちから技術や知識を勉強し、現在は五島のお店などから、デザインからオーダーメイドでの製作の依頼もあるそうです。

「思い出深い製作があるんです。2011年、東日本大震災のあとのことでした。岩手県に住むカトリック信者の方から一本のお電話があって、話を聞くと津波で家から何から全て流されてしまったと。失意のどん底に落ち、これからどうやって生きていこうと思っていた時、五島へ旅した際に見た、教会の美しいステンドグラスの光景が頭に思い浮かんだそうです。『希望だ。これがあれば、私は生きていける、と思って…家に飾りたいんです』とおっしゃって頂いて、なんとか力になりたいと思いお受けしました。」

東北という遠距離からの依頼ということもあり、難易度が高いオーダーでした。それでも「ここにもあった、復活支援!」を合言葉に、粘り強く密に連絡を取り合い、4枚のステンドグラスを制作し岩手に送り届けたそうです。

「ステンドグラスは、まだ文字が読めない人々が多かった時代に、色や形で想いやその意味を伝える役割を持っていました。ガラスの色や表現されている形、全てに意味が込められています。

岩手の方に何を作ろうかと考えていた時に、ふと浮かんだ言葉が『天地創造』でした。教会のマリア様に守って頂けるようにマリア様を描き、”入口”を現す虹、”精霊”を現す鳥を描いたりなど、嵐は去ったよ、平和がやってきたよ、という想いを込めたんです。」

届ける人に想いを馳せながら、ひとつひとつのモチーフや色に意味を宿したステンドグラス。美しいガラスが人々を魅了するのは、作り手のささやかな祈りが、細部まで込められているからなのかもしれません。

作り続けていきたい。大人になってから出会ったライフワーク

市役所の職員をやりつつ、ステンドグラスの製作をしていた濱崎さんは、今から15年前、ご自身が55歳の時に職場を退職し、工房の仕事に専念をするようになります。現在は、製作のかたわら、観光客向けにステンドグラスの製作体験も行っています。

「自分の持っているもので、何かに貢献できたらという想いはあります。これからも、作り続けていきたいですね。いつまでできるかな…」

淡々と静かにガラスと向き合い、こんなにも大変な作業を何気ないことのように、少し控え目に、はにかみながら語る濱崎さん。自宅のドアのガラスを直したいという想いからはじまり、今や島の美しい文化を繋ぐガラス職人に。いくつになっても、ひたむきにやり続けることが、ライフワークにつながるということを、教えてくれたような気がします。

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【538 ステンドグラス工房】
住所:長崎県五島市三井楽町濱ノ畔806-9
定休日:不定休

※五島リトリート rayでは、アクティビティとして、ステンドグラス作り体験を行っております。体験ご希望の方はホテルまでお問合せください。
五島リトリート ray:0959-78-5551
詳細はこちら
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輝く手仕事の在るところ。長崎・ガラスの光。<瑠璃庵・538 ステンドグラス工房>【旅先案内人 vol.20】五島リトリート ray#62023-07-28T13:32:37+09:00

ローカルクラフトを巡る、五島列島。【旅先案内人 vol.20】五島リトリート ray#5

普段、私たちの運営施設をご利用くださっているお客様を対象に、私たちの宿に関わる人々に焦点をあてたニュースレター、「旅先案内人」をお届けしています。

【vol.15】から、数回に渡り、五島列島にまつわる連載を配信しております。この夏新しく開業した五島リトリート ray。五島列島の”地域の光”をご紹介していきます。

(温故知新 運営ホテル:瀬戸内リトリート青凪・壱岐リトリート海里村上・箱根リトリートföre &villa 1/f ・KEIRIN HOTEL 10・五島リトリートray)

技を今に輝かせる、五島の職人たち。

旅の醍醐味に、「地域の”ものづくり”に触れること」があります。その土地で生まれた必然性が宿る地域の手仕事。技を今に輝かせる職人達の手によって磨かれ、この地ならではの気づきを私達に与えてくれます。

私たちのホテル「五島リトリート ray」では、コンセプトのひとつに「local crafts」(地域の光)を掲げており、地域作家によるクラフトたちが、rayの空間を彩ります。五島の
素材を活かしながら、オリジナリティ溢れるものづくりを行う地域の作り手の声に、そっと耳を澄ませていただければ嬉しく思います。

五島のエネルギー溢れる、木の作品 <wan -made in Gotoislands->

自然豊かな五島列島には、バリエーション豊かな樹木が自生しています。そんな木々を活用して作品づくりを行うのは、木工作家 wan -made in Gotoislands- の坂口喜人さん。木のぬくもりを感じながらも、シャープで凛とした佇まいが特徴的な坂口さんの作品にひと目で引き込まれ、現在ホテルのspaとショップで取り扱いを行っています。


wan -made in Gotoislands-

「9年ほど前に、名古屋から五島へUターンをしてきました。高校卒業後に島外に就職したのですが、都会の喧騒に疲れて戻ってきたところ、島の”間伐材”の多さに気づきました。引き取り手のいない間伐材は捨てられていくしかなく、勿体無い。何かに活用できないか。そんなことを考えている最中に出会ったのが、フィンランドの伝統工芸品である “ククサ”という木製のマグカップでした。」


坂口さん

最初は別の仕事をしながら作品づくりを行い、地元のマルシェへの出展や、カフェでの委託販売など、小さく活動をはじめた坂口さん。その後、当時の仕事を辞めたタイミングで、本格的にものづくりをしてみようと考えたそうです。さまざまな木工に触れたり、動画サイトで作り方を独学で勉強しながら、現在のスタイルを確立していきました。

「フィンランドのククサは白樺の瘤の部分で作られていて、非常に野生味がある印象ですが、これをもっと普段使いしやすく日常に馴染むものを作りたいと思ったんです。人々の生活に欠かせない食器を、シンプルに力強く、でも、どんな場面にも合うように。そこにあるのが当たり前かのようなデザインに仕上げました。」

デザインから製作まで、全て自身で行う坂口さんの作品は、既視感のない個性的な佇まいが魅力です。現在では、三越伊勢丹でPOP UPを行うなど、島外からも注目度が高く、五島発のウッドテーブルウェアブランドとして、じわりじわりと名を広めています。

台風が去ったあとは、電話が鳴る。

「以前は島外の木材も希少性の高いものは積極的に使用していましたが、現在は島内の間伐材をメインとし、島外や産地不明の物に関しても解体現場から出てきた物など、循環を大切にしています。

伐採後は自身の工房で3~5年、自然乾燥させています。その後、乾燥状態を見極めて細かく製材していきます。ククサは箱型の状態にした木材から一発の削り出し。この時に個性豊かな木目が出るように木取りが出来るのは、自身で丸太を製材できる環境にないと難しい事なので楽しみの一つでもあります。手にとって頂く方にも、どんな木目のものにするのかを選ぶ楽しさを感じていただけると嬉しいです。」

「活動をはじめてしばらくすると、多方面から”木を切って欲しい”と連絡をいただくようになったんです。切り方を父に教わって、自分で切りに行くようになりました。特に、台風後にはよく電話が鳴ります。土地柄、台風も多いので木が倒れてしまうことも多々あるので、そんな時に声をかけてもらいます。」

台風のエピソードは五島ならでは!と思わず関心してしまいました。地域の困りごとを、ものづくりにポジティブに活用していく。とても素敵な作品作りの在り方だと感じます。現在、坂口さんの作品では、サクラ、タモ、シイ、カエデなどの木を使用しており、ひとつのカップや食器を通じて、五島の自然の豊かさが伝わってくるようです。

「木」の命と向き合う。

「作品づくりをしていると、木も生き物なんだなと実感します。削っていると中に虫が住んでたり、ひとつひとつ表情や柔らかさも異なっていて、個性もある。たまに、すごくテンションが上がる木に出会うこともあって、こんな木目が良い木が島にあったんだなと驚いたりもします。もっと美しくしてやるぞ!と思いますね(笑)」

「私の作品で、レジンを混ぜて削り出したシリーズがあります。愛する五島の海中を表現した、ちょっと遊び心を入れた作品です。wanの工房は福江島のシンボルでもある鬼岳の麓にあるのですが、上水も通っていない地域に所在しています。生活用水は地下に雨水を溜めるタンクを設置し濾過していて、降雨が少ない時期は貯水がゼロになり近くの湧水を汲みに行く事も多々あります。 たくさんの自然の恩恵を受けて生活していますが、生きていく上では、どうしても犠牲も出してしまいます。レジンのシリーズは売上の一部は、自然保護活動団体へ寄付していて、これは私なりの自然への感謝の気持ちと、烏滸がましいですが、お返しだと考えています。」

自然の中で暮らしながら、循環を大切に、環境に対して敬意を払いながら木と向き合う坂口さん。そんなマインドで生み出された五島ならではの作品は、使っているうちに私たちの暮らしにやわらかく溶け込み、使う度に五島の自然へと心が帰っていくような気がします。

五島列島には、木の他にも地域にある素材を新しい解釈で見つめ、ものづくりをしている職人がたくさん存在しています。”モノにはふるさとがあり、その土地で生まれた理由がある。ぜひ五島リトリート rayで、そんな職人たちの魂のカケラに触れていただければ幸いです。

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wan -made in Gotoislands-
HP:https://wan-madein-gotoislands.jimdofree.com/
オンラインショップ:https://shop.wangoto.net/
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ローカルクラフトを巡る、五島列島。【旅先案内人 vol.20】五島リトリート ray#52023-07-28T13:31:32+09:00

お茶から島を変える生産者。グリーンティ五島【旅先案内人 vol.18】五島リトリート ray#4

普段、私たちの運営施設をご利用くださっているお客様を対象に、私たちの宿に関わる人々に焦点をあてたニュースレター、「旅先案内人」をお届けしています。

vol.15】から、数回に渡り、五島列島にまつわる連載を配信しております。この夏新しく開業した五島リトリート ray。五島列島の”地域の光”をご紹介していきます。

(温故知新 運営ホテル:瀬戸内リトリート青凪・壱岐リトリート海里村上・箱根リトリートföre &villa 1/f ・KEIRIN HOTEL 10・五島リトリートray)

耕作放棄地を茶畑に。地域に新たな産業を生み出し、未来へ繋ぐ。

島を訪れると、スーパーや土産物屋で、多くの”お茶”を目にします。五島茶と呼ばれる緑茶から、五島の名産である椿の葉を使った「つばき茶」、他にも五島産のレモングラスを使ったお茶まで。その豊富なバリエーションから、昔からお茶が盛んだったと思いきや、お茶の生産がしっかりとはじまったのは、今から25年ほど前。ひとりの立役者の存在がありました。


ホテルのショップや客室で取り扱っている五島のお茶

島でお茶の生産から販売までを手がける、「有限会社グリーンティ五島」。緑茶をはじめ、緑茶を発酵させた和紅茶、椿の葉を使ったつばき茶など、100%オーガニックにこだわった商品を全国へ届けています。そんな会社の社長、入江 稔雄(いりえ としお)さんは、五島列島のお茶の生産の礎を築いた第一人者。焼けた肌と力強い五島弁が、パワフルな印象です。福江島で生まれ育ち、高校を卒業をした後、父親と同じ畜産業へと進みますが、お茶の生産に関しては未経験だった入江社長。なぜ、お茶の栽培をはじめたのでしょうか。

「茶畑は、今から25年前の平成9年にはじめました。お茶の生産自体は、そのさらに15年前くらいには行われていたのですが、台風災害や後継者の問題などで、しばらく廃園になっていたんです。その頃、島の産業として養蚕産業が一気に盛り上がった時期があり、県内最大の養蚕団地があったほど。しかし、海外産の低価格繭の流入が増え価格は下がり、養蚕農家も高齢化。みるみる衰退していきました。仕事がなくなり、どんどん島の外に人が流出していってしまったんです。どうにかして、五島の新しい産業をおこし雇用の場を作らんばいけん、と思ったのも、お茶づくりを始めた理由の一つでした。」


畑がよく似合うグリーンティ五島の入江社長

「島では、耕作放棄地が増え続けています。ほったらかされてしまった土地は、どんどん土が悪くなっていく。そうなると、土の体力がなくなり美味しいものが作れなくなってしまうんです。また、『山が荒れれば海が荒れる』という言葉があるように、農業の衰退は、海にまでも影響を及ぼします。”これじゃいけん。島のためにひと肌、ふた肌もぬがんばいかん。”そう思って、耕作放棄地を茶畑として蘇らせていく取り組みをはじめました。」

生産者としての原点に立ち返った、オーガニックとの出会い。

経験のないお茶作りにチャレンジをしながら、「生産と同時にお茶屋(現在のグリーンティ五島)までやらないと、五島の経済がまわっていかない」と考え、栽培から販売まで、全てを自ら手がけることに。五島で作られた緑茶『五島茶』は、その確かな美味しさが口コミで広まり、他の地域へと販路が拡大していきます。

「知り合いに紹介され、静岡の茶商を訪ねた時があります。五島のお茶を出したら、”こんなお茶は飲んだことがない。この旨味と甘味はなんですか?”と驚きながら言われたんです。おそらく、堆肥と島の潮風が運ぶミネラルが、お茶を美味しくさせたのでしょう。そこから静岡の茶商との取引が始まっていきました。」

茶商も驚くほどの美味しさと、五島の風土が育んだ特異性を武器に、販路を徐々に増やしていきました。しかし、その後、産地表示義務化の波に揉まれ販路は縮小、ペットボトルの普及などで需要は落ちていく。そして、温暖化や台風の被害も一気に続き、苦しい時期を迎えます。

「いきなり売上が1/10、1/20に落ちていって、トラブルも起こる。肥料のお金も払えない。自分も家族もスタッフも意気消沈して、会話もなかったです。そんな、どうしようもない時にオーガニック農法に取り組む地元の人と出会い、もう一度、原点を見つめ直すことができたんです。

自分らの本当の原点にもどらんば。我々農家というのは、消費者に安心・安全・おいしさを届けるのが役目。それを自分は忘れておった。原点に戻ろう、と。教えてもらった有機農法を続けていくと、お茶も徐々に蘇っていき、さらにまろやかになっていきました。これしかない!と思いましたね。」

現在では、最も基準が厳しいとされる「EU(欧州連合)」の残留農薬基準もクリアし、有機オーガニック認証を取得。厳しい時期を乗り越え、消費者へより良い商品を届けながら、自分たちも胸をはって誇れるものづくりへと、歩みを進めていきました。

つばき茶、そして、レモングラス。新たな島の産物を生み出す。

震災以降、中国産のお茶が流入し、お茶の価格が暴落。その頃、五島列島では島の特産物を作り活性化につなげたいという動きがありました。素材として注目されたのが「椿の葉」でした。古くから椿が自生し、現在も栽培が盛んであった椿を活かせないか、入江社長にも相談が持ち込まれます。

「最初は、エグくて口に入っていかなかったんです。頭を抱えながらも試行錯誤の末、椿の葉と緑茶を混合発酵させる世界初の製茶法で”五島つばき茶”を生み出しました。つばき茶を、県の農業試験場に出してみたら、日本人の成人病の効果があるような、驚きの成分も出てきたんです。美容や健康効果も確認され、今や、五島の大切な地域産物の1つになっています。」

新たな地域産物を作るために、奔走した入江社長。「つばき茶で生産者の生活を支え、島に人を呼び戻すきっかけになれば・・・。」そんな想いが、彼の胸の内にはありました。

「近年、地球温暖化や台風など異常気象の影響で、お茶を育てるのがどんどん難しくなってきています。せっかく頑張って育てても、ダメになる。現場も疲弊してしまいます。”とにかく南方の品物が必要だ”と思い、色々調べた末に、レモングラスにたどり着きました。」

お茶っぱに続く第二の”柱”を作るべく、南方系の素材、特にハーブなどを検討していたところ、知人からレモングラスは島に雑草でも生えていて、越冬していることを教えてもらったそうです。現在のオーガニック農法と堆肥土づくりが、レモングラスにマッチし、美しい色をした香り高いレモングラスの栽培に成功。入江社長は、島の未来を見据えつつ、再びこの地ならではの素材を生み出しました。

『この島はいい島だと、若い人に自信をもたせんばいかん』

入江社長の挑戦の真ん中には、いつも島のため、島の豊かさや経済を守るという信念があります。そんな彼に、島の豊かさとは何か?と質問を投げかけると、こんな答えが返ってきました。

「それは、”経済と心”だと思います。いつでも向上心を持っていること。みなさんの活気、やる気が必要です。私が生きている間に、この島はいい島だと、若い人に自信をもたせんばいかんと思っています。地元に自信があれば、出ていこうとは思わないはずです。そのためには、外から来た人に、どんどん島の素材を磨いて美しくして、価値を高めて売り込んでいって欲しい。地元の人には、原石がわからなくなってしまっているんです。お互いにアイデアを出し合って、私たち生産者にもどんどん注文をつけてほしい。我々は、いくらでもいい素材を作って、それに応えていきたいと思っています。」

全ては、島の未来を見据え、次の世代に島の豊かさを繋ぐために。耕作放棄地を茶畑に、そして椿茶の栽培、新たにレモングラス生産へのチャレンジ。バイタリティ溢れる入江社長の姿からは、地元への深く大きな愛情と、ものづくりへの情熱を感じます。お茶から島を変えていく、グリーンティ五島の取り組み。次はどんな難題をクリアし、新たなチャレンジをしていくのか・・・今後も目が離せません。

有限会社グリーンティ五島
長崎県五島市吉久木町1179-2
Instagram:https://instagram.com/greentea_goto

お茶から島を変える生産者。グリーンティ五島【旅先案内人 vol.18】五島リトリート ray#42023-08-18T10:55:05+09:00

離島という逆境を乗り越えて。おいしい食材を五島から全国に。HPIファーム【旅先案内人 vol.17】五島リトリート ray#3

普段、私たちの運営施設をご利用くださっているお客様を対象に、私たちの宿に関わる人々に焦点をあてたニュースレター、「旅先案内人」をお届けしています。

vol.15】から、数回に渡り、五島列島にまつわる連載を配信しております。この夏新しく開業した五島リトリート ray。五島列島の”地域の光”をご紹介していきます。

(温故知新 運営ホテル:瀬戸内リトリート青凪・壱岐リトリート海里村上・箱根リトリートföre &villa 1/f ・KEIRIN HOTEL 10・五島リトリートray)

熱視線集まる、五島の「パプリカ」。

五島の魅力とは?と聞かれると、美しい海、歴史深い文化、温かな島の人・・・色々なキーワードが頭に浮かんできますが、中でも、驚きと感動が詰まっているのが「食」ではないかと感じます。島の直売所には、みずみずしい野菜やフルーツが毎日並び、スーパーで買うお魚もとっても新鮮で、身は引き締まり旨味たっぷり。島外出身の私は、「身近な食材がこんなに美味しいなんて!」と、島の食材を口にする度に五島の豊かさを噛み締めています。(農家さんにお話を聞いたところ、潮風が運ぶミネラルが素材を美味しくするのだとか…!)

そんな、食いしん坊にはたまらない地、五島列島。たくさんの農作物が育てられている中で、今、都市部のレストランやホテルのシェフからも熱い視線を注がれる食材があります。それが、五島の「パプリカ」です。


パプリカの栽培を行うHPIファームの皆さん

肉厚でジューシーな実は、噛めば噛むほどみずみずしく、苦味や青臭さが一切ありません。まるで、フルーツを思わせるような優しい甘み。私たちのホテル五島リトリート rayでも、五島のパプリカを使用しており、日々レストランのメニューで活躍してくれています。そんなパプリカの栽培に取り組んでいるのは、地元の会社『HPIファーム』。「五島パプリカのファンを増やしたい!」という想いのもと、ひたむきに野菜づくりに取り組む生産者の日常を、取材しました。

故郷のために力を尽くして。島を想い、はじめた農業。

お話を伺ったのは、HPIファームに勤める小野寺 克哲さん。小麦色に焼けた肌がよく似合い、すっかり五島ご出身の方だと思っていると、「実は、東京生まれ東京育ちなんです」と、意外な返答が。

「2021年の11月まで、親会社の(株)ディーソルに勤めていました。もともと、社長が五島の出身だったこともあり、五島でも東京でも事業を行っている会社です。昨年、定年退職を迎えたのですが、長年一緒に仕事をしてきた社長に相談し、第二の人生を五島でスタートしようと思い、移住を決意しました。」

「弊社の社長は、東京でIT企業を立ち上げたのですが、もともと社長が五島出身ということもあり、五島にも会社の拠点を設けています。ただ、その親会社も五島の拠点も、基本的にはITの事業を行っていて。農業とは関係のない領域でした。そんな中、2016年に、行政の方から、島内のワイナリーのワイン作りのために、ぶどうの生産者を探しているという相談があって。社長は、故郷のために力を尽くしたいと考えたのでしょう。全く未経験者の集まりながら、ワイナリーのための5ヘクタールの葡萄園を作ったんです。」

「それまで、島内だけでは生産力が足りず、一部のぶどうを山梨などから買ったりしていたそうです。みんな、やっぱり五島産で作りたいという思いがあったんですね。しかし、ぶどうは育つまで時間がかかるので、他の食材を育てようとはじまったのが、パプリカでした。また、島では、農業をやる人が減り、耕作放棄地が増加して山が荒れてしまっています。そんな土地を引き受け、土地を再活用して、色々な作物の栽培に取り組んでいるのもHPIファームの特徴です。」

温泉熱を活かした、サステナブルな栽培方法にチャレンジ。

通常、パプリカの収穫時期は6月~9月頃、夏の時期が旬ですが、HPIファームのパプリカは栽培するパプリカのビニールハウスの温度を暖かく保ち、1年中収穫ができるよう工夫をしています。中でも特徴的なのが、一部の畑のエリアでは、湧き出る温泉熱を活かし、ビニールハウスの室温を保っていること。通常、重油をつかって、ビニールハウスの温度調整を行うことが多いですが、自然のエネルギーを活用することで、環境に優しい形で栽培を行えます。

「4〜5年ほど前まで、日本のパプリカの約90%が韓国産、4%がニュージーランド産だったそうです。近年は、少し国産の比率が上がってきているものの、まだまだ海外産が多い現状です。温泉の熱を活かしいつでも収穫できるようにすることで、五島の美味しいパプリカが少しでも多くの食卓に届けられると良いなと思っています。」

HPIファームでは、パプリカ以外にもこの6年の間に様々な素材を育ててきました。ブロッコリー、ミニトマト、高菜、空豆、かぼちゃ、さつまいも、マンゴー、びわ・・・・。中には、うまく育たなかったものもたくさんあり、農業未経験者ばかりで行うものづくりは、毎日がトライ&エラーの繰り返しでした。時には、他の農園さんに電話でわからないことを尋ねたり、思考錯誤の積み重ねです。

「愛情かければ良いものができるから!」を合言葉にやっています、と小野寺さんははにかみながら語ってくれました。

離島という逆境を乗り越える、強い農業へ。

「最近では、ふるさと納税で毎年リピートして買ってくださるお客様も出てきています。こんな風に、しっかり産地のこと、私たちのことを知って買ってくださる方を、もっと増やしていきたいですね。特に、五島列島は離島という立地柄、もともと流通の面ではとても不利な条件なんです。輸送コストや時間、どれをとっても本土の地域に比べれば高くつきます。だからこそ、しっかりと美味しいもの、クオリティの高いものを生み出して、価値があるものにお金を払っていただく。この島ならではの作物を作り、農業を起点に島を盛り上げていきたいと考えています。」

まだまだ手探りのことも多い日々の中、しっかりと五島の農業や食の未来を見据える小野寺さん。食材が私たちの元に届くまでには、生産者の努力や知恵と工夫が、その裏には存在していることを、忘れないでいたいです。

農業法人 株式会社HPIファーム
http://www.hpi-farm.co.jp/
長崎県五島市下大津町712番地26

離島という逆境を乗り越えて。おいしい食材を五島から全国に。HPIファーム【旅先案内人 vol.17】五島リトリート ray#32023-08-18T11:01:48+09:00